携帯電話が普及して以降、腕時計は必需品でなくなりましたが今でも着用している人は多くいます。スイス製の高級腕時計は変わらず人気があるし、書店には腕時計のMOOK本が並んでいたりします。
腕時計を持つ理由は、便益性やファッション性、社会的なステイタスなど人それぞれだと思いますが、私の場合はその腕時計との出会いに「ストーリー」のようなものを感じると買わずにはいられなくなります。
夢中になった映画の象徴「ハミルトン Odyssee 2001」
子供の頃『2001年宇宙の旅』という映画を見て衝撃を受けました。映し出される宇宙ステーションなどのセットや小道具がとてもリアルでカッコよく、忘れられない映画になりました。この映画の中で宇宙飛行士が付けている腕時計は、アメリカの時計メーカーHamilton(ハミルトン)が製作した小道具ですが、1968年の映画公開から40周年を迎えた2008年に全く同じ形の腕時計が発売されました。しかしそれ以前、映画の公開と同時に発売されたモデルがあります。それが「Odyssee 2001」です。
こちらは正式に映画会社からライセンスされたものではないので、発売するための苦心が商品名に見られます。『2001年宇宙の旅』の原題は『2001 a space Odyssey』ですが、商品名は「Odyssee 2001」です。単語の順番を替えているだけでなく、よく見ると『Odyssey』が「Odyssee」になっています。
大人になって映画を見直したことをきっかけにこの腕時計のことを知り、探し回ったあげくようやく海外のオークションサイトで購入することができました。当時のスペースエイジっぽいデザインでとても良い雰囲気です。
子供の頃に夢中になった宇宙映画。そこから生まれた腕時計。その存在を知って手にした時、それが私の中でひとつのストーリーになりました。
「SEIKO スピリット」に感じるそれぞれのスピリット
ある時、ヤフオクで素敵な時計を見つけました。SEIKOの「スピリット バイ パワーデザイン プロジェクト」です。シンプルだけどボリューム感があり、懐かしいけど現代的。見慣れた感じだけど、よく見るとどの時計にも似ていない。私は一目で好きになりました。
調べてみると、私の好きなプロダクトデザイナー深澤直人さんがデザインしたものでした。一目惚れしたモノが好きなデザイナーの作品だと分かる。当然といえば当然のことなのですが、自分の目がブレていないことが確認できて嬉しくなり、私は同じタイプの色違いを2つとも落札してしまいました。
深澤直人さんのプロダクツは無印良品や±0(プラスマイナスゼロ)といったブランドでも良く知られています。かつて手掛けたauのINFOBARも人気の高い製品で、私自身それまでの携帯電話にはなかった楽しい色や形に惹かれたファンのひとりです。
その深澤直人さんとSEIKOのデザイナーによる創作活動が「セイコー パワーデザインプロジェクト」です。時計と並んでこのプロジェクト自体もグッドデザイン賞を受賞しています。
深澤直人さんは『バウハウスってなあに?』というバウハウス入門絵本を推薦していますが、自身のモダンでシンプルなデザインはやはりバウハウスの影響を大きく受けているのだと思います。バウハウスもまた私の憧れであり、写真集を買っては眺めています。
100年前のドイツの創作スピリットは時間と大陸を超えて受け継がれ、深澤直人さんとSEIKOによってひとつの腕時計となり、私はそれを見つけることができました。そして私はこの腕時計を毎日身に付けています。これが私にとってのこの腕時計のストーリーです。
偶然がストーリーになる
1990年代の終わりにGoogleが登場して、多くのものを“検索”で見つけることができるようになりました。生活用品も流行も友達も検索して探すことができます。昭和生まれとしてはそんな状況にしっくりこないことも多々ありますが、昔好きだったものや気になったことを“検索”したことで「ハミルトン Odyssee 2001」と「SEIKO スピリット」を見つけ、さらに自分だけのストーリーができました。
深澤直人さんがデザインを手掛ける±0の家電や雑貨は、「子供にとっての玩具のように大人が日々の生活の中で楽しめるモノ、ちょっとした幸せを感じられるモノ」がコンセプトだそうです。また、現代はモノの価値が便益性ではなく、その製品やブランドが持つ「意味」や「ストーリー」に変化しているとも言われています。まさに「ハミルトン Odyssee 2001」と「SEIKO スピリット」は私にとって「日々の生活の中で楽しめるモノ、幸せを感じられるモノ」であり「ストーリーがあるモノ」です。