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春に観たい岩井俊二作品と桜が印象的な映画

桜

2020年1月、映画『ラストレター』が公開になり、岩井俊二監督の作品が好きな私たち夫婦は久しぶりに岩井ワールドを堪能しました。

独特の世界観や映像美が「岩井ワールド」「岩井美学」と表される岩井俊二監督の映画。『ラストレター』も間違いなく「岩井美学」が詰まった「岩井ワールド」なのですが、いつからか岩井作品に物足りなさを感じるようになったのは私だけでしょうか?素人が言うのも変ですが、映画作りが“上手くなった”と感じるのですが、その分以前の作品にあった何かが無くなったような・・・。自分でも何がそう思わせるのか分からず、私が岩井ワールドに慣れてしまったのかとも思ったのですが、今でも過去の作品を観返すとやはり「この頃の作品のほうが好き」と思うのです。

例えば、ダークサイドを描いた『スワロウテイル』や『リリイ・シュシュのすべて』も良いですが、春は軽やかなテーマで爽やかな気持ちになれるものが観たくなります。岩井作品らしい映像美で、明るい季節感を感じられる3作品です。

爽やかな気持ちになる岩井作品

  • 花とアリス(2004年)
  • 四月物語(1998年)
  • 打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?(1995年 実写版)

花とアリス(2004年)

岩井俊二「花とアリス」
岩井俊二「花とアリス」
岩井俊二「花とアリス」

先輩に恋心を抱く花と、花に協力しながらも先輩に惹かれていくアリス。2人の少女の恋愛と友情は、花が咄嗟についた嘘をきっかけにシュールな様相を帯びていきます。

花とアリスのやり取りが中高生らしくて可愛い。花のはた迷惑な嘘も、三角関係も喧嘩も、すべて無邪気なものです。そんな中、ホロリとさせるのはアリスと家族のエピソード。そして、花屋敷の女の子の話です。花の部屋もアリスの家も、それぞれが抱えていた孤独や抱えている寂しさを表したようなインテリアで、その世界観がとても良い。

アリスがバレエを踊るシーンも圧巻ですが、最も印象に残っているのは満開の桜の下を2人が登校するシーン。私の中では『あん』(河瀨直美監督)と『櫻の園』(中原俊監督)と並んで桜のイメージが強い映画となっています。

それにしても、いつにも増してキャストが個性豊かな顔ぶれで、短い出演でもそれぞれが良い味を出しています。この作品には遊び心も盛り込まれていて、さりげなく映し出される名称に気づくのも楽しかったです。

四月物語(1998年)

憧れの先輩を追って上京し大学生活を初める卯月ですが、新しい生活では気後れすることばかりです。そんな卯月は先輩がアルバイトをしている本屋に足を運び、ついに再会を果たします。

岩井作品には光を効果的に使った画が多くありますが、この作品でも光が綺麗なシーンが随所にあります。窓から陽が差し込む本屋、光が揺れる故郷の草原、陽を反射する高校の廊下など。そしてなんといっても、上京したばかりの卯月と空っぽの部屋が映し出されるだけのシーン。古くて狭いアパートの1室が、窓からの光によってドラマチックな舞台になっています。

光のシーンと同じように印象的なのが雨のシーン。卯月は黒い服、背景はグレイッシュで全体的に彩度が低い中、卯月が持つ傘の赤だけが際立っていて綺麗です。冒頭では桜が、クライマックスでは雨が降りしきり、“始まり”を彩っています。

新しい環境ではどちらかと言うと緊張感のほうが強かった私ですが、この映画を観ると「四月っていいな。」と思います。

桜の坂道
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ちなみにこの映画の撮影地のひとつは、こちらに記した幕張ベイタウンです。

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?(1995年 実写版)

小学校のプール、クラスメイトの典道と祐介はなずなのことを思いながら水泳で勝負をします。2人の勝負を見守るなずなにも密かに思う気持ちがありました。教室では友人たちが「打ち上げ花火を横から見たら丸いか?平べったいか?」を議論しています。今夜の花火大会でそれを確かめるため、典道と祐介と友人たちは灯台へ行く約束をします。

家庭の事情を抱え少し大人びているなずなを中心に、典道と祐介の勝敗によって2通りのストーリーが展開されるシナリオです。3人の幼い恋心も良いですが、「花火が丸いか?平べったいか?」に夢中になれる男の子たちにも感情移入します。夏休みが最高に楽しくて特別だった頃、特に夜に感じた解放感や、小さなことで友人たちと盛り上がったことなどを思い出しました。

幻想的な夜のプール。クライマックスの花火が打ち上がった瞬間。どちらも、主題歌と相まって切なくなる大好きなシーンです。

桜が印象的な映画

  • あん(2015年 河瀨直美監督)
  • 櫻の園(1990年 中原俊監督)

あん(2015年 河瀨直美監督)

どら焼き屋「どら春」の雇われ店長と、そこで働くことになった76歳の徳江。徳江に教わりながら2人で作る粒あんは評判となり店は繁盛します。しかし、ハンセン病の後遺症で指が不自由な徳江のことが噂となり、客は来なくなり、徳江は店を辞めます。「どら春」の常連だった中学生のワカナは店長を誘い、2人は徳江に会うためハンセン病患者の療養所を訪れます。

らい予防法の廃止がニュースとなったのは記憶に新しいところ。そのニュースで初めてハンセン病患者が強制隔離されてきたことを知り、現代の日本でこのような差別が続いていたという事実に衝撃を受けました。

この映画ではハンセン病患者の壮絶な人生を想像させられます。徳江がしみじみと話す言葉ひとつひとつが悲しく、胸が締め付けられます。徳江と店長とワカナ、年代が違う3人の悲しみを、カナリアと桜が一層切なく助長しています。

桜
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櫻の園(1990年 中原俊監督)

伝統ある女子高校の創立記念式典。毎年の定例となっているのが、演劇部によるチェーホフの『櫻の園』の上演です。年頃の少女たちが抱えるのは、部員の間で芽生えた恋愛感情のような憧れと嫉妬、学校という場所への閉塞感、アイデンティティの葛藤。彼女たちの行動は上演の危機という事態を引き起こしますが、それぞれが折り合いをつけ、本番へと向かいます。

演劇部の生徒たちのほんの数時間の様子を切り取り、少女たちの内面を丁寧に描写した作品です。私は少々退屈に感じましたが、それでも生徒たちの他愛ない会話や、今となっては微笑ましい悩みなど、自分の学生時代と重なる部分もあり共感できました。頼りない若い女の先生が泣いたり奮闘する様子から喚起される思い出もあり、そういった様々な要素の普遍性が多くの人の支持を得ている理由なのかもしれません。

桜
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