室内で暮らしている猫が外に逃げ出したという話は、ずっと他人事のように思っていました。ところが、うちの猫は大丈夫だろうと油断していた私の目の前で、ある日たまが脱走してしまいました。
家から閉め出してしまう危険性について
たまの脱走事件が起きる30年ほど前、初代猫のアリスがしょっちゅう外に飛び出していました。当時は特に対策をせず、人が玄関を出入りする時にアリスが近くにいないかを確認するだけでした。そんなことでオテンバなアリスの脱走を防げるわけがなく、玄関ドアを開けた瞬間に足元を走り抜けて出てしまうのです。しかし遠くまで行くことはなく、玄関の周辺で私たちとの追いかけっこをひとしきり楽しむと、最後は満足したようにおとなしく家に戻るというのがお決まりのパターンでした。
そんなアリスのお遊びが危うい展開になったことがあります。私が外出する時に外でうずくまっているアリスを見つけたのです。私はすぐにアリスを抱いて帰りましたが、家にいるものとばかり思っていたアリスがいつ外に出たのか不思議でした。おそらく姉が出かけた時に抜け出したとしか考えられず、姉はそれに気づかずそのまま行ってしまったようです。いつもと違い誰も追いかけてこないので、アリスは家に帰れず2時間ほど外にいたことになります。
幸い大事にはなりませんでしたが、その一件があってさらに気を付けるようになりました。しかし、2代目のチーと3代目のたまは外に出ようとすることがなかったので、いつしか脱走への注意が薄らいでいました。そうしてたまの脱走、行方不明事件が起きてしまいます。
その日、私が外出先から帰るといつものようにたまが玄関まで迎えに来てくれたのですが、いつもと違ったのはふと興味を持った様子で外に歩み出たのです。でもそれはマンションの通路に出ただけのこと。すぐに危険があるわけではないので、私は急ぐことなくたまの後を追いました。失敗だったのはその際に玄関ドアを閉めてしまったことです。たまはすぐに自ら家に戻ろうとしたのですが、ドアが閉まっているの見てパニックになり始めたのです。走り始めたたまを慌てて追いかけるとたまは加速し、ついに塀を超えてマンションの外に出てしまいました。私はたまを見失ってしまったのです。
脱走後すぐにやるべきこと
この経験から、猫が外に出てしまっても近くをウロウロしているような時は慌てず、でも速やかに、自ら戻ってきた時のための対処をしておいたほうが良いと思います。たまもそうでしたが、好奇心で外に出たものの怖気づいてすぐに帰ろうとする可能性があります。家にいる他の猫が脱走する危険性がなければ、ドアや窓を開けておくことですぐに解決するかもしれません。
もし見失ってしまった場合は、すぐに家の近辺を捜し続けることが重要です。捜索するべき範囲について調べると情報に多少の差異があったのですが、外に慣れていない猫が脱走した場合、3日以内は家から半径50m~300m以内のところにいる可能性が高いというのが大方の内容でした。思いもしないところに隠れていたり、そこから移動することもあるのですぐには見つからないかもしれませんが、同じところを何度も捜すことが必要です。
そして協力者をできるだけ増やすことです。迷い猫を捜している旨のチラシを作成すると、思っている以上に多くの人が気に留めてくれます。古典的ですが有効な方法です。SNSを利用するという方法もありますが、その場合でも遠方の人より近所の人の協力を得られるような試みをするべきです。誰かが保護してくれた場合は保健所または動物愛護センターに収容されていることや、警察や動物病院に連れて行っている可能性があるので、そういった機関への連絡も大事です。
捜索方法
- 可能な場合は家のドアや窓を開けておく
- 家の近辺を何度も捜す
- チラシの配布やSNSへの投稿で情報提供を求める
- 地域の保健所・動物愛護センターや警察署に届け出る wan-nyan.netのサイトへ
- 近所の動物病院に連絡をする
- 捕獲器を設置する(その土地の所有者に許可を得ること)
- ペット探偵に依頼する
たまを見失った私はどうしたらいいか分からず、思いつくままにお世話になっている動物病院やペットシッターの方へ連絡をしたり捕獲器を借りてきたりしました。夫と手分けして草木の陰や車の下などを捜しまわり、合間に動物愛護センターへ連絡し、チラシを作成しました。そのチラシを持ってマンションを回ったり道行く人に尋ねたり、近くの学校にチラシの掲示をお願いして校内を捜させてもらったりもしました。
たまが見つかったのは脱走から16時間後のことでした。チラシを見た近所の方が歩いているたまを見つけて連絡をくれたのです。たまがいたのは家からわずか60mくらいのところ、何度も捜し歩いたマンションの敷地内です。疲れ切っていたのか逃げようとはせず、捕獲器を使うことなく簡単に捕まえることができました。
たまが見つかるまでには多くの方が一緒に捜索をしてくれました。病院の先生とペットシッターさん。私の様子を見て声をかけてくれた近所の小学生。ペットシッターさんはご自身のwebサイトで情報提供の呼びかけもしてくださいました。他にもたくさんの方がチラシを受け取って心配してくださり、とても感謝しています。しかし、このようなことでお世話になってはいけないと反省しています。
マイクロチップ装着などの対策について
たまは無事に帰ることができ、その後の健康診断でも問題ないことが分かったのですが、二度と同じ思いはしたくありません。病気になった猫を看病したり最期を看取ったことのほうが、安否が分からない状況よりはマシだったと思うほど辛かったです。
アリスのようにヤンチャですばしっこい子だけでなく、たまのように臆病な子だからこそ些細なことでパニックになり逃げ出してしまうという危険性があります。脱走の可能性が低い子はいないこと、脱走防止の対策が必須であることを学びました。
今は玄関ドアの前にはフェンスを置き、たまの後代のホクとモアナはベランダにも出さないようにしています。ベランダに出たがる2匹を見ていると不憫に思うことがないわけではありませんが、たまのことを思い出すと室内で暮らせることは幸せなことなんだと思えます。2歳まで野良生活をしていたたまでさえ見つかった時はとても怯えていました。そして家に帰って落ち着きを取り戻すと、長いことゴロゴロと喉を鳴らしていました。
2019年、猫や犬の販売業者に対してマイクロチップの装着が義務化され、一般の飼い主に対しても努力義務が課されることになりました。動物愛護に関して後進的な日本ですが、先進国の法律に倣った形です。マイクロチップの装着は動物病院で行います。個体識別番号が書き込まれたマイクロチップを埋め込んでもらい、飼い主の情報を記入した申込書を日本獣医師会に送付することでデータベースへ登録されます。動物愛護センターや動物病院でマイクロチップの情報とデータベースとの照合ができるので、迷子になった猫が保護された時に飼い主の特定ができるようになっています。
ホクとモアナは、痛い思いをさせないために去勢手術、避妊手術の際にマイクロチップを入れてもらいました。改正法の成立前でしたが、保護主さんとの譲渡契約に盛り込まれていた内容だったので、それがマイクロチップのことを考える機会になりました。
マイクロチップを装着することにもしないことにもリスクがありますが、我が家では装着することで得られるメリットのほうを選びました。特に災害時の話を聞くと、離れてしまった大切な家族との再会を果たすために有効な手段だと思います。