マリオ・ベリーニがデザインした電卓

マリオ・ベリーニの電卓

1973年にイタリアのオリベッティ社から発売されたDIVISUMMA18という電卓は、世界的に有名な建築家、デザイナーのマリオ・ベリーニがデザインしたものです。角を落とした滑らかな形やボタン部分に貼られた黄色のゴムシートなど、電卓とは思えないようなスタイリングです。

日本では1972年に「カシオミニ」が発売され、一般に電卓が普及し始めていました。日本製の電卓は小型、薄型など技術面は優れていましたが、外観はモノトーン中心で保守的なものが大多数でした。しかしイタリアではこんなに明るくて可愛らしい電卓が生まれていたのです。

DIVISUMMA18はニューヨーク近代美術館(MOMA)の永久収蔵品になっていて、20世紀を代表するデザインと言われています。

スーパーカーとDIVISUMMA18の共通点

ところで、イタリアの文化が日本で人気になったのはいつ頃からでしょうか。

1980年代後半のバブル期には、イタリア料理を「イタ飯」と言いデートの必須アイテムになっていました。その少し前には情報雑誌「ブルータス」で、よくイタリア特集が組まれていました。しかし、もっと前にイタリアに魅了された人たちがいます。それは、1970年代の小学生たちです。イタリア製の高級車、フェラーリやカウンタックが大人気となったスーパーカーブームの中心には彼らがいました。1970年代といえば日本でも自動車が一般家庭にまで普及していましたが、子供でも分かる「カッコイイ車」はなかなかありませんでした。子供たちの憧れの車は、変身ヒーローもののテレビの中でしか走っていなかったのです。ところがイタリアという国が、テレビの中でしか見たことがないような車を作り、「お金があれば買える」という夢を見させてくれたのです。

そんなイタリア製のスーパーカーと同じくイタリア生まれのDIVISUMMA18には共通するものを感じます。DIVISUMMA18にはそれまでの電卓にはない新しさがあります。未来からこの電卓だけが1973年のイタリアにタイムスリップして、それが歴史に刻まれてしまったかのようです。同じように、それまでの車にないスタイリングで登場しがのがフェラーリやカウンタックです。「車はこうあるべき」という形からかけ離れていました。常識に囚われない子供たちが、真っ先にイタリアンデザインを理解し熱狂したのです。

マリオ・ベリーニの電卓

機能が失われても残るもの

DIVISUMMA18をデザインしたマリオ・ベリーニはイタリアの巨匠と言われ、家具や電気製品、照明や建築などたくさんのデザインを手がけています。

彼は「形態は機能に従う」というデザインの原則を否定し、「慣習、感情、文化が形態を作る」と言いました。「形態は機能に従う」とは、デザインされるものが “どんな機能を持つか” によってその形が決まってくるということです。車であれば “移動する” 、建築であれば “住む” 、ラジオであれば “聴く” など、その機能によって合理的な形が決まってくるという考え方です。20世紀以降のデザインではこのような考え方が一般的ですが、マリオ・ベリーニは違うと言ったのです。

車を “移動するための道具” というところから考え始めるとどれも大差ない形になってしまい、スーパーカーのような車は生まれないでしょう。電卓も “計算する道具”というところからの発想では無難なデザインに落ち着いてしまいます。マリオ・ベリーニの言うように慣習や感情や文化こそ、全く新しい、夢のあるデザインを生み出す原動力なのかもしれません。そして、そのように生まれたものは価値を持ち続けます。

この電卓は今はもう動きません。機能的には使えないモノです。しかし、その明るい色彩と柔らかな形、ボタンを押した時の「カチッ」という音と感触などに飽きることはありません。その価値は機能が失われた後にも残るのです。

タイトルとURLをコピーしました